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6-23 2人の秘め事 1

last update Last Updated: 2025-05-24 22:30:23

翌日――

「え? 昼食会ですか? 今週の水曜日に?」

本日のスケジュールを翔に伝えに来た姫宮は突然の申し出に首を傾げた。

「ああ、そうなんだよ。『ラージウェアハウス』の二階堂社長と今後取引を考えていて、昼食会を設けて一度話し合いをしようと言うことになったんだ」

なるべくさり気ない態度で翔は姫宮に説明する。

「ですが私はその席に必要なのでしょうか? それに確か翔さんと二階堂社長はお知り合いでしたよね?個人的にも親しくお付き合いされていたようですし……」

姫宮は首を傾げながら意見した。確かに今の説明では姫宮が在籍する意味が見いだせないことは、翔自身良く分かっていた。

一体どう説得すれば姫宮は二階堂との昼食の席に参加してくれるのだろうか……? 翔は悩みに悩んだ末、苦しい言い訳を始めた。

「あ、ああ。姫宮さんの言う通り、俺と二階堂社長は大学時代の先輩後輩と言うことで仲が良い。仲がよいからこそ2人きりでは話し合いにならないんだ。つまり俺達の馴れ合いの会話を止めてくれるような誰かが必要になりそうだから、互いの秘書にも同席して貰おうと言う話になったんだよ」

「あの、仰る意味が良く分からないのですが……?」

(一体翔さんは何を考えているのかしら? でも翔さんのことを知るには二階堂社長のことも少しは知っておく必要があるかもしれないわ)

翔は姫宮が少し考え込んでいる姿を見て、内心焦りを感じていた。

(まずいな。やはり怪しまれているようだ。大体、こんなはっきりした理由もなしに姫宮さんを先輩の前につれだすなんて……)

そこまで考えた時、姫宮が口を開いた。

「承知いたしました」

「え……? 姫宮さん?」

不意を突かれたかのように翔は目を瞬たせた。

「それでは私も昼食会に同席させていただきます。それで時間と場所はもう決まっているのですか?」

「あ、ああ。一応決めてはある。11時半から13時まで赤坂にある個室の料亭を予約してはいるんだ」

「はい、承知いたしました。それでは水曜日同席させていただきます」

姫宮は頭を下げた。

****

その夜――

久しぶりに姫宮は京極の部屋を訪れていた。

「ねえ、1人暮らしだからってちゃんと食事はとっているの? 冷凍庫にストックしておいた料理、全部無くなっていたわ。冷蔵庫の中だって野菜は何も入っていないし、お酒と牛乳にチーズしか入っていないわよ?」

姫宮は手早くキ
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-9 彼女の事情

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